近年、日本で働くミャンマー人の方々が増えています。彼らが持つ真面目さや高い学習意欲は、日本の企業にとって大きな力となります。しかし、文化や言葉の壁が、スムーズな業務遂行を妨げることも少なくありません。ここでは、ミャンマー人の方々がどのような日本語を学んでいるのか、そして、私たち日本人が職場でどのような言葉遣いを心がけるべきか、筆者の経験に基づいて書いてみます。
📚 日本語学習の道筋:JLPTのステップアップ
多くのミャンマー人学習者は、「日本語能力試験(JLPT)」という明確な目標に向かって日本語を学んでいます。この試験は、基礎のN5から最上級のN1まで、段階的にレベルが上がっていきます。彼らが今、どのレベルで日本語を使っているかを把握することは、私たちが話す日本語の難易度を調整する上で非常に重要となります。

まず、入門レベルのN5では、ひらがな、カタカナに加え、「日」「山」「人」といったごく簡単な漢字を読み書きし、「〜は〜です」「〜ます/ません」「〜ました/ませんでした」といった、肯定や否定、過去を伝える最も基本的な文法を習得します。この段階では、短い挨拶や自己紹介が主なコミュニケーションの範囲です。
次に、N4に上がると、語彙は増え、日常会話でよく使う表現を学び始めます。「〜てください(依頼)」「〜てもいいですか(許可)」「〜なければなりません(義務)」といった、生活に必要な複雑な要求や状況を伝える文型が登場します。しかし、ミャンマー語には種類が少ないため、日本語の助詞、特に「は」と「が」、「に」と「で」などの微妙な使い分けに多くの学習者がつまずきやすいと言われています。この助詞のニュアンスの違いが、日本語の理解を深める上での大きな壁となるのです。
さらに、N3レベルに進むと、日常的な会話や文章をほぼ理解できるようになります。「〜たほうがいいです(助言)」「〜らしい/ようです(推測)」など、より複雑な思考や感情を伝える表現を習得し、普通形(タ形、辞書形)を使った文法接続が増えます。これにより、新聞の簡単な記事や職場での一般的な指示も理解できるようになりますが、日本語特有の「丁寧さ」の使い分けや、場に応じた適切な言葉選びには、まだ慣れが必要な段階と言えます。
🗣️ 職場の日本人が気を付けるべき「やさしい言葉遣い」
ミャンマー人の方々が、学んだ知識を職場で最大限に活かすためには、私たち日本人の協力が不可欠です。彼らの学習ステップを踏まえ、私たちは言葉の使い方に配慮する必要があります。
まず、話すときは、「です・ます」調の丁寧語を基本とし、短い文で区切ることを徹底しましょう。長い一文は、途中で意味を見失わせ、理解を妨げます。「この作業をまずしてください。それが終わってから、こちらへ来てください。」というように、一文に一つの情報だけを込めるイメージです。また、「適当にやっておいて」「空気を読んで」といった曖昧で、日本の文化に根ざした表現は、決して伝わりません。具体的な行動を指示する、ストレートな言葉を選んでください。
次に、和製英語と専門用語には特に注意が必要です。日本の職場では「コンセント」「ノートパソコン」といった和製英語が日常的に使われますが、これらは彼らの知る国際的な英語とは異なります。可能な限り「プラグ」「ラップトップ」など、国際的に通じる言葉に言い換えるか、あるいは「電源の差込口」「持ち運びできるコンピューター」といった、やさしい日本語で説明するとよいでしょう。また、職場特有の専門用語や略語を使う際は、必ずそれが何を意味するのか、具体的な内容をセットで教えることを習慣づけてください。また熟語より単純な言葉の組み合わせを選ぶことも重要です。「朝食何食べた?」と聞くより「朝ごはん、何食べた?」と聞く方が伝わりやすいです。
最後に、コミュニケーションの姿勢が大切でしょう。言葉で説明するだけでなく、指差しや動作を加えて、五感に訴えかけるように情報を伝えましょう。そして、日本語の間違いを指摘する際は、「それは違います」と否定するのではなく、「こう言うともっと分かりやすいですよ」「こうするとより丁寧ですよ」といった、改善を促す前向きな言い方を心がけてみましょう。学習意欲の高い彼らが安心して日本語を使い、成長できる環境を作ることが、職場全体の生産性向上にもつながると筆者は考えています。